イーグルで決めた優勝・・・実は手が震えていたんです。 - from45

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イーグルで決めた優勝・・・実は手が震えていたんです。

2007年1月 1日 18:21

優勝争いをしているときはスコアボードを見ないようにしています。
他の選手のスコアを気にせずに自分のプレーに集中するためです。
でも今回は別でした。

2位の谷口さんと1打差の-11で迎えた最終日最終組。
天気は前日の大雨と違ってかなりの晴天。
選手達には好スコアを出せる最高のコンディションでした。

1番で紹介のアナウンスの後に、気合を入れてティーショットを打ち一発目からナイスショット。
今日はなかなかの手応えがある。
日曜日だけあって沢山のギャラリーがこの組を追っていました。
やはり他所では味わえないこの雰囲気は何回あっても気持ちいいものです。
僕達プロゴルファーは見せて、観客を沸かせてなんぼだと僕は思います。

そして沢山の人で囲まれた3番グリーン、みんなをワーッと言わせることが出来ました。
なんと25メートルもあった奇跡の超ロングパットを決めたのです。
もしカップに入らなかったら3メートルはオーバーしていたかもしれません。
スコアを-12に伸ばし、今日はイケると感じました。

しかしそう簡単には他の選手が勝たせてくれるはずはありません。
谷口さんもバーディーを決め、しっかりと食らい付いてきます。
他の選手もきっとスコアを伸ばしてくるに違いない。
そんな白熱した決勝戦、慣れているとはいえプレッシャーは相当ありました。

ところがそんな緊迫した空気の中、僕はやってしまいました。
なんとダボを打ってしまい上位から転落。
谷口さんに逆転され、しかも僕以外の選手はどんどんスコアを伸ばしている様子。
あっという間に試合の結果が全く分からない程の大混戦の超団子状態。

優勝する選手は最終日にダボなどは打たないので一気に負けームードが漂ってきました。
応援してくれていたギャラリー達からもため息やらダメだしの声が聞こえました。

それからは忍耐との戦いでした。
耐えて耐えて、チャンスが来るのを待ちました。

そして迎えた13番ホール。
僕はカラーから難しいパットを決め再び-11に戻し、一気に流れが来たのを感じました。
今まで沈んでいた空気から一転して、ファンの皆に再度火が付きました。
その時の声援にはすごく助けられたのです。

しかし-11のままでは優勝は難しいのは分かっていました。

残りのホールをどう攻めるか?グリーンセンターに乗せてのパー狙いでは優勝することは出来ない。
次のロングでは確実にバーディーを取らなくてはなりませんでした。
14番でパーを取って迎えた15番のロングホール。

ティーショットはFW、セカンドショットも快心でグリーンを捉えました。
ファーストパットをピン1メートルに付けてバーディーを確信。
きちんと残りのパットを決め、-12にし、そこでスコアボードに目をやりました。
-11に何人かいましたが僕が1打差でリードしている事に気付きました。
しかしこれで残りの3ホールをミスすることは出来なくなりました。
そう思ったら急に体が震え始めたのです。

16番ではとりあえずパーを取ろうと思いました。
そして打った球はグリーンセンターに乗り、なんなくパー。

次第にプレッシャーを感じ始め、17番でも緊張は解けず、無我夢中でティーショットを打ちました。
沢山のギャラリーが見守る中、打球はFWに向かって飛んで行きました。
ホッと息をつきましたが、ティーグラウンドからボールに向かう最中、色々な悪いことが頭をよぎりました。
それはもうなんとも言えないプレッシャーで神経がおかしくなるんじゃないかと思うほどです。

しかしそんな時はキャディーのエカとゴルフとは全く関係の話をしてリラックスします。
たわいも無い話をしながらセカンド地点に到着。
「ここもパー狙いでいいです。」その一言で迷わずセカンドショットをグリーンに乗せる事ができました。

しかしここでまた試合を面白くさせれるドラマが...僕にしてみたらまた余計なことを...なんて思ったのですが。

なんと林根基さんが長いバーディーパットを決めて-11に伸ばしてきました。
僕はそのホールパーで-12のまま。
林さんにもチャンスが残ったわけです。

18番はツーオンが十分に狙えるロングなので僕もしがパーで林さんがイーグルなら逆転。
バーディーでもプレイオフ。
再度スコアボードに目をやると何人かすでに-11でホールアウトしていました。
もし林さんがパーでも僕がボギーを打ったら数人でのプレイオフ。
そう思ったら今まで以上に体が震えてきてしまいました。

最終18番のティーグラウンドに上がり、まずは林さんのティーショット。
林さんの球は十分にグリーンを狙えるところに落ちました。
そして僕の番になり、いざティーアップをしようとしたら手が震えてボールを落としそうになってしまいました。
それを他の二人に悟られない様に背を向け、手元を隠しました。

18番はパーを取る自信があったのですが、それではダメだと思い、もうとにかく思いっきりクラブを振りました。
あー良かった、真っ直ぐ行ったー。
その時の僕の心境です。

セカンド地点に到着すると前の組がグリーン上にいました。
様子を見ていたらちょうどチャンドがパットをする所でした。
するとその球はカップにすっと入り、ギャラリーの大喝采が沸き起こりました。
あれっ、バーディーだよね?いや違う、イーグルじゃん!?
なんでまたそんな事をー!-12で並ばれてしまった!
やばいなーなんて思ったら頭が白くなりかけました。

グリーンが空き、まずは林さんのセカンドショット。
もちろん狙いはツーオンでしょう。
しかしその球は惜しくもグリーン手前の土手に当たって水に入った様子。
林さんの悔しそうな顔が僕の目に映りました。
前には先にホールアウトしたチャンドが待ち構えています。

そして僕が打つ番になり、その距離は4番アイアンでちょうどでした。
でもそれは今入っている14本の内で最も愛称の悪いクラブでした。
このクラブでは打ちたくない、しかし刻むわけにも行かない。
アゲンストよ吹けー吹けーと強く頭の中で念じました。
きっとこの時の強い願いがゴルフの神様に届いたのでしょう。

その瞬間ビューっと強い向かい風が吹きました。
良しっ!すかさず7番ウッドをバッグから抜いてグリーンに向かって快心の一撃。
球が上空にあがった瞬間、まるで自分ひとりしかこの世にいないような静けさに包まれました。

ドンッとボールがグリーンに落ちたのが聞こえ、次の瞬間にグリーンを囲む群衆の拍手と大声援。
運命の一打はピン4メートルについた。

片山晋呉